今日も一日健やかに物語を

おもしろいと思ったものを

『星炉病棟』 春井安子著 りんごを受け継ぐ者

春井安子さんの作品は、生きづらい人間が主人公の物語 を描いていて若い人に凄く刺ささると思います。そして音楽から着想を得ているのだろうと思うのですが、作品もそのまま物語を歌詞に出来そう。誰か歌にして下さい。


さて、今回の作品なんですが物語のなかで語られていることが少なく、そのまま読んだだけではとても難しいと思う。でもこれって歌も聴いただけではわからないものが多いと思う。春井さんのブログで書かれているなかで紹介されている楽曲を聴くとわかると思うのですが、そのどれもがなにも考えずに曲を聴くだけではなにを言ってるのかわからないと思います。(少なくとも自分はそうだった)

ただ、これらの楽曲のどれもが 苦しい内なる叫び を歌っているのはなんとなくわかると思うんです。この苦しさというのは何処からくるのか?と言うと全て人間関係から来ていると思うのです、でもこの苦しさって大人になると解消されるものが大半なんじゃないかなと思う。大人になると相手がなにを考えてそう言ってるのかが解ってきたり、そもそも他人なんてコントロールできないものなんだってわかってくるからです。だけど若い人にはこれがわからない、それに子供は自分の存在を生存させるために相手(親)に愛されることが重要になるから、相手から否定されるともうそれだけで生きていけなくなるように感じるんですね。仕事をしてお金を稼げるようになると愛なんてなくても生存することは可能だってわかってくるわけですが。

長々と意味のわからんことを語ったのは、こちらの作品に出てくるクーヤとイナカも若さ故の苦しみを抱いていると感じたからです。クーヤは他人と合わせるのがとても上手な子で、これは日本的な学校空間で生きていくためにはとても大事なスキルなので、これがないと日本の会社では仕事がうまく回らないので。この空気の読めるクーヤですが、もしイナカの視点、つまり陰キャの目からみたら、リア充とか陽キャに見えると思うんです。でも、イナカからみたら楽しそうに見えるクーヤは実は、クーヤの視点を通してみると、孤独を抱えていることがわかります。

それは学校でのクーヤと病室で老人と話しているクーヤを見ると全然口調が違いますよね、どちらがクーヤの本性かはわかりませんが、少なくとも悪態をついて喋っているということは相手に甘えているということなので(悪態をつけば相手がどんな感情になるかわかっているのだから、それをするということは相手が傷ついてもいいという自分勝手な行為)、甘えを出せるということは病室でのクーヤのほうが彼の本質に近いのではないだろうか。

だから、それ以外の場所、家、学校、彼のパーソナルスペース全部ですね、その全てが彼にとっては自分の本質をさらけだせない、ストレスを感じ続けて生きている訳です。そんなの、地獄ですよね?と、すればそれから解放されたくて、若い人が考え付く、実行が容易にできること『自殺』をしようという風になったんだと思います。


こちらの作品のあとがきに、クーヤは元々幽霊設定であったということなんですが、これはとてもわかります。だって普通の作品、少年漫画であれば自殺から始まってそれがハッピーエンドに繋がる作品なんて作れないと思うんですよね。それをハッピーエンドに持っていけたこちらの作品は素晴らしいです。


クーヤを救ったのは老人でした。老人は「一人で、好き勝手に生きた」と言っています。クーヤとは真逆ですね、たぶん色々な人に迷惑をかけてきて、だから最期の時も誰も見送りに来てくれなかった。だけど、老人は最期の最期で、自分を晒しても語り合える相手がいることの楽しさを知ったのだと思います。だから、クーヤにもそうした、自分を晒して話し合える相手をつくって欲しいと願ったのだと思います。その願い、想いが作中では『林檎』という形で表現されてたんだと思います。

林檎を受け取ったクーヤはイナカへと林檎を差し出します。こうやって人は、林檎を渡していくのだと思う。


イナカの視点でみると、上手く生きていけないイナカがリア充のように見えたクーヤだって、実は生きていくのがツラかったのだと知ったら、イナカの孤独は癒されてるのだと思う。自分だけが上手く生きていけないのだと思っていたら、上手く生きてる奴だってツラいんだってわかったのだから。こう言うと『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』のヒッキーと葉山 隼人の対立と解体を思い出す、そしてこの先に『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』のような作品があるのだと思う。まぁ別にいいんですが。

つまり、この先のイナカとクーヤは苦しい人生をどう生きていくか?という風にシフトすると思うのです。ひとつの答えとして春井さんの作品の『My Sweet Lavender』で人生の命題を見つけて、それにコミットすることがありますね。(こちらの作品傑作なので是非観てほしい!!)


いやー、春井さんのブログの方でもうすでに解説がされているので、語ることなんてないなー、楽しかっただけ書けばいいなーって思ってたんだけど意外と言葉が出てきたなぁ。うん、やっぱり面白かったからだよなぁ。春井さんの解説を見てから自分の考察記事を読み直すとキャラの内面に対する考察が全然できてなくて、あー俺って人の感情を見ているつもりで見てなかったんだなーっていう気付きがあってよかったなーって思う。ま、まぁ今回語ったこともすでに解説されていることと違うことをいってるかもですが、人ってのは自分の見たいものを見てしまうものなのでそういうこで・・・。

 

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やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 (ガガガ文庫)

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