今日も一日健やかに物語を

おもしろいと思ったものを

『さよならクローゼット』 柾塚ちい著 問題を解決するのではなく、逃げているのでもなく、どうでもよいことだったんだ!!

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とても、とても素晴らしかった、何度も読んでしまう。最近はKindleで漫画を読んでいて久しぶりに紙の本を読んだのですが、やっぱり紙は紙のよさがあるよなー、としみじみ思う。なんていうんだろう、受けとる情報量が違うって言うのかな?こちらの本はB5版の大きさなんですけど、こう、『圧』を感じるんですよね。それはキャラの熱さだったり、背景のキラキラだったり、色々なものから感じてるんだと思う。B5の大きさで読めたからこそ感じる印象があって、とても良いなーと。

ここからはネタバレありのなので注意です。

この作品の概要を説明すると


被服部に所属する三田まゆかは来る文化祭で自分の作成したドレスを披露するために、朝来容子にモデルになって欲しいと頼むが断られてしまう。それでも諦めないまゆかに容子がとある事を言うのだが・・・。


みたいな導入で始まります。

最初読んでいて、あぁ、まゆかがなんとかして容子にモデルになって貰えるんだろうなって思いながら読んでいて、モチロンその通りになったのですが、そこに至るまでが物凄く衝撃的でした。

まゆかがなぜ容子を選んだのか?という理由付けがとても理論的で、それなら容子しかないよねって納得できます。
ただ、自分の妄想なんですが、別の理由として「容子が母に似ているから」という理由もあったのではないかな?と思ったりします。自分の容姿が人並みであると理解しているまゆかは、美人女優である母にコンプレックスを抱いていて、だから母に綺麗に化粧をしてもらったり、ドレスを着させて貰って「似合っているわよ」と言われても、母以上には似合わないことがわかっているから、似合っていると言われても嬉しくはない。でもこれは裏を返すと、綺麗なモデルに綺麗な化粧やドレスを着てもらうことがまゆかにとっての喜びであるんだと思うんですよね、幼いころから綺麗な母を見続けてきたからこそ、綺麗な人がその魅力を最大限に発揮できるように着飾ることが好きなんだと思います。

それと、容子がそれはもうこっぴどくモデルになることを拒絶するんですが、容子はまゆかが美人を利用している!と言っていますが、たぶんそれだけじゃなくて、容子はまゆかの母シライマリィに似ていると誰かに言われたことがあったのではないだろうか?だからこそ、母の代替品として自分を使わないで欲しいと思って拒絶したのではないかな?

と思うのも、容子はまゆかが作ったドレスのイメージボード(?)を見て、これはシライシマリィの着ていたドレスと似ていると瞬時に言い当てるんですよね。有名な女優がこんなドレスを着ていたの知ってる!なんて普通の人はそこまで意識していないのではないかなと。でも容子は瞬時に言い当てる、これは容子がシライシマリィをすごく意識していたからだと思うのです。
そして、多分なんですが、シライシマリィの美しさには勝てないと心の何処かで思っていたのではないかなぁ?だからまゆりにキツい言葉を言い放つ。勝てない勝負はしたくないから・・・。

いやぁ、でもこの容子がまゆかに対して言い放つ言葉が素晴らしいなぁと感動してしまいます。人はこんな理由で他人を利用しようとするのだなぁとこれでもかと言うくらい言い放っていて、それで最後に「自分がないからって人の魅力を借りて誤魔化すんじゃねえよ」って、めちゃめちゃキツい言葉で、これってまゆかのすべてを否定する言葉ですよね。こんなこと言われたら立ち直れないないよ俺だったら(泣)

だけど、まゆかは折れない、なぜならまゆかはそんなことを言う容子に魅力を感じてしまったから。す、すげぇよまゆか!なんで折れないんだ!?と思う。うーんなぜだろうか?最近『かぐや様は告らせたい』を読んでいるんですが、そのなかで「成功体験がない人間は自己肯定感が低い」とあるのですが、まゆかはその点自分の服が褒められた経験や、たぶん親から褒められて育ったのではないだろうか?だから自己肯定感が高く、何度も容子に拒絶されてもめげないでいられる。傷つかないわけではないと思うんだけどね。

でも、こうやって拒絶されることでまゆかは何故容子を選んだのかを考えるんですよねー。そうすることでまゆりは自分の服を認めて欲しいからでもなく、母の影を振り払うためでもなく、他人を身代わりにしたいのでもなく、ただ純粋に容子の魅力を100%引き出したいから!という理由にたどり着くんですよね。いやぁ、ここ素晴らしいよねぇ。だって、これって容子が容子だから好きなんだって言ってるんだと思うんですよね。

容子のどこかが好きだから好きなのではなくて、容子だから好きなんだ。なんだか『やがて君になる』の燈子を思い出します。燈子は自分を偽って生きていて、その偽っている自分を好きになる人を軽蔑しているのだと思っているんですが、これの解決方法は燈子自身をみてくれる人が現れること。これ、容子はまゆかの誘いを受け入れる訳ですが、それってまゆかは容子が美しいからっていうだけの理由じゃなくて、容子が容子だからモデルにしたいと、自分のすべてを認めてくれたからですよね。容子の周りの、軽い自分の容姿だけしか見ていない男どもと違って。だから容子はまゆりの誘いを受け入れたんだ。

そして、この時点でまゆかの『母を越える』という彼女のドレスを作る理由が『容子の魅力を引き出す』に変わっているんですよね。これが、マジで驚きました。だって最初読んでて、これは母からの解放を描いていくのかと思っていたら、もうそんなことはどうでもよくなってるんだよ!?問題を解決するのではなく、逃げているわけでもなくて、そんなつまんないこともうどうでもいいだよ!!ってまゆかはもう次のレベルに上がっているっていうことですよね、成長したんだ。

いや、ほんともう。こんな物語の進め方があるのか!と驚いてしまっているし、失禁ものだよ!
家に縛られているのであれば例えば『彼氏彼女の事情』の有馬くんの父は家の評価が及ばない海外にいくし、『かぐや様は告らせたい』こっちはまだどうなるかわかりませんが、たぶんかぐやは物凄い力をつけて、家の力が及ばないほどの人間に成長していくのではないかと思うのですよね。こうして、家の問題は解決するか、逃げるかの選択指しかないと思っていたところに、第三の方法、そんなちいさいことはどうでもいいんだ!!という、力強い、こういった方法もあるんだと。クリエイターさんって物凄いです、こんなに素晴らしい答えを描き出す。いやぁ、すごいなぁ。

「閃択」この言葉もすごくいいですよね、この作品を通してのテーマであるとも思う。まゆかは新しい道を選択して、容子は新しい自分を選択してなど、彼女たちは色々な選択をしていく。選ばされるのではなく、選ぶ。だからこそ結果閃光のように煌めく光が見えたんだろうなぁ。

そして、この物語がとても美しいのはまゆかと容子の関係が対等だからなんだと思います。例えば母とまゆかの関係は母から服を着せられるまゆかという母が上でまゆかが下の関係。物語の中盤までの容子を羨望の眼差しで見るまゆかは、容子が上でまゆかが下。後半で描かれる、まゆかと容子の実力が拮抗している、どちらが上でも下でもないと感じる光景。どちらかの実力が上だと、どうしても、でもこっちの方が上だよね?って裏読みしてしまいます。が最後の二人はどこからどう見ても対等であるとわかる。だからこそ美しい光景なのだと思う。


あーー!面白かったし、素晴らしかったなー!まゆかの勢いとか、発言のセンス、この子どうしたんや?(笑)ってなってキャラに魅了されてしまう。容子の黒のドレスの美しさと迫力とか、もう色々素晴らしいものが他にもたくさんありますので、ここまで読んでくれた方は是非本書を読んでください!!

 

 

 

彼氏彼女の事情 1 (花とゆめコミックス)