今日も一日健やかに物語を

おもしろいと思ったものを

『錨を揚げる』ちょめ著 毎日の仕事で疲れきっている社会人はどうにかして休んでください・・・。

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前の記事からの続きです

kenkounauma.hatenablog.com


あ、ネタバレが多少あります。


前の記事でも書きましたが『喫茶フロンテーラ』を読んでからこちらの本を読んだので、最初はおぉ、こっちは『海』か!どんな世界を魅せてくれるんだろうとめっちゃわくわくしながら読んでいたので、全然救われないまま物語が進んでいって、そして22ページからの展開・・・。『喫茶フロンテーラ』のような素敵な景色を視て彼女が救われるのだろうなという展開を想像しながら読んでいたので、もの凄く衝撃的でした。


えっと、内容を簡単に説明すると

今日も終電まで仕事をしていて、海を見たいと思っていたが行く時間も気力もなかった彼女。帰りにふっと立ち寄ったドラッグストアで見つけた地中海の香りが楽しめる入浴剤を購入した。早速使ってみると・・・。 みたいな感じです。


癒しの時間が取れないとどうなるの?

現代の問題点のひとつでもある仕事での過労による自殺や鬱、自分はこれを語れるほどに知識はないですし、実際に自分は社会人ですが、毎日残業続きで帰りは22時過ぎで、家に帰ったら寝るだけみたいな体験をしたことがないので、そういった方が感じている苦痛を感じたことがありません。


こちらの物語の彼女は、そういった生活をしていて、自分には彼女の苦しみを想像することしかできません。ですが、仕事から帰ったら癒しを求めている気持ちはわかります。だから自分は物語を楽しんで、それを癒しにしています。


でも、こちらの彼女はそういった癒しが一切無くて、暮らしている部屋の描写を見ると生活必需品以外になにもなくて、彼女が癒される要素が一切ないことが想像されます。癒しの時間が取れないんだ。そんな、癒しの時間が取れない人が精神的におかしくなっていって、最後は海に辿りついてしまうという表現は、やはり癒しの時間が取れないと人間とはこうなってしまうのだなと背筋が寒くなってしまいます。健康な生活大切です。


ホームから転落する彼女や、海に向かう主人公はおそらく、そうしようと思ってそうしてる訳ではないのだと思う、どこかでみた「死のうと思ってる人は自殺しない、なぜならそれはまだ精神的に持ちこたえている状態だから。末期の人はふっとした瞬間にもうすでに自殺してる」ということなんだろうな・・・。主人公が毎日仕事で追い詰められて、癒しもなくて、最後に向かう場所が海なのはすべての生命の生まれた場所であり、帰りたい衝動があったからだろうか。ここで、夜にみた海は怖いのに、朝日が昇る海をみたときには言葉を無くすほどの光景に驚いてるんですよね、本当に感情が動いたときというのは言葉にならないんだ。そして、ふらっと海の方へ向かう主人公、スマホが鳴って振り返るが電池切れで、もう彼女を引き留めるものが無くなった瞬間。現実に下ろしていた錨から解放された主人公は海に帰っていく、錨を揚げた、いや錨を捨てたんだ。(詩的表現)


海の書き込みがとても細かくて、この世界に、いや海に引き込まれてしまう。綺麗だなぁ。前作(?)の『喫茶フロンテーラ』ではこの綺麗な世界を視ることで主人公の少女は現実を生きる糧にしているのに対して、こちらの主人公の女性も朝日が昇る海という綺麗な景色をみているけど、それが現実を生きる糧になるのではなくて、最後の一線を越えるきっかけになっている。この違いが面白いなーと思う、どちらも綺麗な光景に感動しているのは同じで、それに、たぶんそこに行きたいという気持ちを抱いているのではないかと思う、でも結末が違うんだ。その時の精神状態の違いなのかな・・・?

ベクトルの違う話を描かれている、過去作はどんなのがあるんだろうか?気になる。

 

 

わたてんの記事で書いたけど、

kenkounauma.hatenablog.com

この世で生きている価値があるのか?という問いに答えが出せないと人間は生きている理由を見いだせないで自殺してしまうのではないだろうかと思った。最近こういった仕事で疲れた人が生きる気力を取り戻すみたいな作品をちょくちょくみるので時代はそれを求めているのかな?とも思った『世話やきキツネの千狐さん』や『やさしいヒカリ』『社畜異世界飛ばされたと思ったらホワイト企業だった』『小林さんちのメイドランゴン』などなど。

同人作品だとこちらもそうでしたね

kenkounauma.hatenablog.com

つらいときに救われる方法として描かれるのは仕事とは別の世界を見せてくれることなんじゃないかな?これらの系統が出てくるのはいまの日本人が直面している問題だからかのかなー。その解決方法を見いだそうとしているのはやっぱりクリエイターの方々はすごいなぁと思う。この系統だと、大傑作の『きっと、うまくいく』がめちゃオススメです。

 

あぁ、素晴らしいです。自分が言いたかったことはこの「希望もなく、人とかかわること自体が煩わしい世界で生きる希望を持てますか?」というのはまさにその通りだと思います。

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