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『ハイライトネガフィルム研究所』春井安子著 キミの人生はキミのものだ。

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基本的にネタバレと適当なことを書いてます!!

 

 

去年のコミティアから春井さんの作品を追っているのだけど、今回の作品はいままでの作品の雰囲気と比べると、ものすごく明るくって(これで明るいって思うくらいだからいままでの作品をどれだけ暗いと思っていたのか(笑))、背景なんかも黒よりも白が多くて、光を感じると思うんですよね。 そして今回の作品がいままでと決定的に違うのは「わかりやすさ」ですね。 そして、今回の作品を読んで、春井さんが描いてきたいままでの作品が一本のテーマで繋がっていたんだ!!と気がついたんです。それは作品のなかにある台詞でもある

『君の人生は君だけのものだよ』

この台詞を見て、うぉー!そうか!そうだったのか!春井さんの作品群がばっと頭の中を駆け巡って、全てが繋がったんです。『My Sweet Lavender』ではラベンダーの過酷な人生を描いているけれど、彼女の人生はきらきら輝いて見えます、それは自分の人生を生きているからだし、『メヌエット』では少女と母親と祖母のそれぞれの人間の生き方を描いているし、『星炉病棟』のクーヤは周りの人間とうまくやれるという自分の人生を生きていない人間を描いていて、そこから自分の人生を生きるための再生の物語を描いているし、『エンジェルフラット』では自分の人生を生きるために探してもがく物語だし、『アクメーネ訪問者』では脚が氷の女性とそれを好きだ!と声高に叫ぶ男のその人の個性は個性で良いんだと言っている物語だし、『六角形のチョコレート』では自分の人生を見つめなおす物語だし。去年から春井さんを追い始めたので、これ以外の作品だとどうなのかわかりませんが、ここまでテーマ性が一貫しているともうこれまでの春井さんはこれを描いていたのだ!と思うんです。

 

そして、ですね。今回の作品で春井さんは次のステージを描いているんじゃない!?と思うんですよ!!(適当なこと言ってる)


物語作者って明るいものを書いた次は暗いものを書くというような、例えば、『がんすり』を描いた相田裕さんが『1518!』を描いたり。『ミスミソウ』を描いた押切蓮介さんが『ハイスコアガール』を描いたり。『ヒメゴト』を描いた峰浪りょうさんが『初恋ゾンビ』を描いたように、逆を行くことがあるようなのでそういうことなのかもしれませんが、でもいままでの作品では心の純粋な叫びを台詞にしていたり、場面を構成しているように見えるので、受けとる側も、なにかを受けとるのだけど言葉にしづらかったんじゃないかな?と思う。それが、ついにはっきりと誰にでもわかる言葉で台詞として描かれるんですよ『君の人生は君だけのものだよ』と。いままでの作品だとそれを言っていたのだけれど、はっきりとは言わなかったし、それを肯定してくれる人がいなかった。だけど、今回の物語で店員さんは

それを肯定しているんだ!!君は君の人生を生きているんだ!と

それを明るい描写で描いているのだから、もうそれが春井さんのなかでも肯定されているのだと思うんですよ。だからこの作品で出てくる店員さん?(いらないモノを持っていってしゃぶらせると良い気持ちにしてくれる) からのメッセージなんだと、背中を押す応援の言葉なんだと思う。それって『けものフレンズ』でサーバルちゃんがかばんちゃんをすっごーい!とかつくったー!?とかめちゃくちゃ応援してくれるじゃないですか、それに勇気づけられて、かばんちゃんは成長していきました。だから、誰かが応援してくれることってものすごく重要なことなんだと思うんですよね。人間とは一人では生きていけない生き物で、だから自分の行動とは自分の為であり誰かのためでもあると思うんです、でもその行動が本当に誰かに届いているのかなんて伝えてもらえないとわからなくて不安になるんですよ、『茉莉花官僚伝』2巻にある

 

「私も子星も、なにかをしたあとは評価が気になる。変えてくれてよかったという声があればほっとする。そのために動いたんだから」 

 

 

この台詞を言うのは超優秀な一国の統治者なんですが、そんな人間でも、どんなに自己肯定できている人でも誰かの言葉を必要としているんですよね、でなければ誰の声も目もない山に籠って生きているはず。応援することの重要性、それを考えて考えてついに、渡す側になったんじゃないなーと思います。ちなみに『茉莉花官吏伝』のこの台詞のあとにある

 

──そうか、と茉莉花はようやく気づくことができた。

 物事をよくしたいと願い、動く人がいる。 そんな人に出会えたら、自分がすべきことは、「すごいな、自分もそうなれたらな」とぼんやり眺めることだけではない。 

彼らの時間を、本当にこれでよかったのかと振り返ったり、不安になったりすることに使わせるべきではなかった。すごく助かったと伝えることで、安心させたり喜ばせたりして、前向きな気持ちで次のことに取り組ませなければならなかったのだ。 

一からなにかをつくり出すような発想ができないのなら、彼らに感謝と支援を。(当たり前のようにすごいことをする人は、たしかにいる。でも、当たり前のようにそれを受け取ることは、決してしてはならない) 

これまでずっと、当たり前のように受け取ってしまったものがたくさんある。『便利だね』『ありがたいな』と呟いて終わらせてしまわないよう、どんなに大変なことだったのかを想像する力をつけよう。

 これはいい台詞。

 

今回の本の13ページにある台詞なんですが

かつての努力だけじゃ手に届かなかった本当の幸福はさ、
君がもう少し大きくなったら手に入る事もあるってこと

 

 

これはもう本当にそう思います。学生時代なんて、知識もないし、お金もないし、資格もないしで自分の知っている世界なんてものすごく狭いんですよね、インターネットなんかで世界の広さを知っていてもそれは知っているだけで、実際に自分で体験しないことには実は本当にはわからないんだ。だからライフネット生命創始者であり、立命館アジア太平洋大学の現学長である出口治明さんがよく言われている『人、旅、本』というのはそういうことなんだと思います。自分の世界を広げるならそうしないといけい、と逆を言えばそれをしてない人は世界が狭いと言えます、それってほとんどの子供に当てはまりますよね、だから子供は狭い世界での価値観しか知らずに、その価値観で決めなくてはいけない。でも、大人になるにつれて、色々学んで、体験して、選択肢の幅が広がるんだ(た、たぶん)。 実際、自分も社会人になってから青春をやり直しているので、それが『かつての努力だけじゃ手に届かなかった本当の幸福』って奴なんだと思います。(ほんとか?)

あ、全然作品の感想をしてない気がするから、しよう。

なんていうか今回はギャグテイストな感じを受ける表現が多いです。まじで、これはなんというか衝撃的でした、春井さんてこういった明るい表現ができるんだ!?って(超失礼)。 それと、漫画演出の仕方(?)が変わったように思います、具体的どう変わったのか?と言うと難しいのですが、フィルムの表現とか、1ページ丸々使ったりとか、そこがいままでと違うように感じます。こちらの表現が良いなって思いました。

主人公の彼は自分のやりたいことを忘れていた。というのは、なんというか心にぐさっと来る。 これは現代人の大事なテーマである『内発性』の話を思い浮かべます。 大人になるにつれて、特撮ヒーローや、漫画の主人公のように、自分は特別な人間ではないことを知っていきます。ですが、特別な人間になれない自分、そして私が私であるということ、特別でない自分を認めることで特別な自分になれるんです。『ネギま!』のネギ君、『青空エール』のつばさ『ちはやふる』の真島 太一などなど。それと『三月のライオン』の島田さの言う

どんなに登りつめても決してゆるまず 自分を過信する事がない 
だから差は縮まらない どこまでいっても

しかし 『縮まらないから』といって それがオレが進まない理由にはならん
『抜けない事があきらか』だからって オレが『努力しなくていい』って事にはならない

 

 

この台詞を思い出します。特別にはなれないけど、でも諦めなくていいんだ、自分なりの特別を目指せばいいんだ。

うん、まとめると今作は春井安子さんの作品の入門としてとても素晴らしい作品であると同時に、いままでの作品の集大成であると思いました。これを読めば春井さんの作品群はなにを言っているのか?という軸がわかりますので。

あとがきに書かれていますが、春井さん寝てください(泣) クリエイターの死因はだいたい寝不足なのを目にしますので、無理をしないでください・・・!