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『響け!ユーフォニアム』『響け!ユーフォニアム2』 特別じゃない人間と特別な人間なんて本当にいるの?

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黄前久美子は1期で語られている「本気で全国に行けると思ってたの?」にこの子の全てが集約されていると思う。

 

自分のやっていることが、将来に結び付くのか?という疑問があって、部活をやっている人間は本当にプロになれるとか、そうじゃなくても試合に勝つとか、コンクールに入賞するとか、そういった目標を掲げてはいるけれども、本当にそれが達成できるなんて思っていないんじゃないか?と思います。というか、これは自分の実感として、スポーツ少年だった自分もなんとなく大会で優勝するっていう目標を掲げていたけど、でも実際に優勝できるなんて思ってなかったです。だから久美子の言う

 

「本気で全国行けると思ってたの?」

 

この言葉を発する気持ちがわかってしまいます。では、逆に言うとなぜ「全国になんていける訳がない」のか?それは、本気で部活をやっていたとしても、分かっているからなんですよね、自分には才能がなくて、自分より上手い人間はたくさんいて、この分野では自分は特別になれない。という想いを抱いていていたからです。優勝するために部活をやっていても心のどこかでは「全国なんていけるはずない」と諦めているんです。

 

1期では、このどこか冷めた、黄前久美子高坂麗奈の『特別になる』という情熱を知り、自分も特別になりたいと音楽に対する情熱を、ひいては人生を生きる情熱を持つ物語でした。


では、2期はどういった物語だったのか?というと、1期で焦点を当てていたキャラを観ると『黄前久美子』『加藤葉月』『中川夏紀』『中世古香織』このキャラたちの共通点はなにか?と言うと、『特別な人間ではない人たち』なんだと思うんですよね。

 

この『特別ではない人たち』が、人生の情熱を取り戻していく、特別な人間に劣らない人生を歩もうともがく物語だったのではないかと思うのです。

 

そうすると2期で焦点を当てられるキャラ達をみると『鎧塚みぞれ』『田中あすか』『滝昇』『高坂麗奈』このキャラ達の共通点はソロパートを任せられるほどの実力者であるということ、吹奏楽部的に言えば『特別な人間』であると言えます。つまり、1期では『特別ではない人間』側の物語を、2期は『特別な人間』側の物語をやっている。これ、なにを意味するかというと、才能のある人間と才能のない人間の対立構造を解体する物語なんだと思うんです。

 

1期で語られた特別ではない人間側の物語では、才能のない自分がどうすれば情熱を持って人生を生きていけますか?という問いがなされます。でもこれって、極端に言うと才能さえあれば情熱をもって人生を生きていけたのに!と言っているんですよね。

 

それを、2期では、じゃあ、才能のある人間はなにも苦悩を抱えずに生きているの?ということに答えたんだと思うです。『鎧塚みぞれ』も『滝昇』も『田中あすか』も『高坂れいな』もなにも事情を知らない人間からすれば、好きなことで実力を発揮できる、なにも苦悩のない人間のようにみえていると思います。でもそうじゃないですよね。

 

『鎧塚みぞれ』はオーボエのソロを任せられるくらいの実力者です。でも彼女は中学生の頃は一人ぼっちでいる子で、その時に話しかけてくれた『傘木希美』を自分を見つけてくれた、自分の存在理由を与えてくれたとして認識します。ですがその希美が部活をやめる時に自分に声をかけずに辞めていったことを知ってショックを受けます。彼女がオーボエのソロを任せられるくらいの実力者であるのは、希美に再び見つけてほしいからでした。でも、それとと同時に希美から、あなたは私にとって必要な人間ではないということを言われてしまうのではないかと恐怖しています。彼女がコンクールが嫌いだという理由が、他人によって順位を決められてしまうからなのですが、これは自分と希美の関係性のことを指しているからなんだと思うんですよね。希美にはたくさん友達がいて、自分はそのたくさんの友達のなかの一人であって、1番ではない、たくさんの中から順位をつけられているように感じていたからなんだと思います。才能を持っているように見えたみぞれは、わたしを見つけてくれた希美への執着と恐怖を抱えて生きている人間だったんだと語られます。

 

『滝昇』は部活勧誘時点ではとても全国に行けるような実力を持っていなかった吹奏楽部を、全国へと導いた実力の持ち主です。ですが、彼は奥さんを亡くし、すぐに立ち直れた訳ではありませんでした。立ち直れた理由ははっきりとは明言されませんが、恐らく亡くなった奥さんの夢であった『母校で副顧問になって全国で金賞をとる』という夢を叶える機会が訪れたから立ち直れたのではないかと思うんです。ですから彼が吹奏楽部を全国へと導いたのは、みんなのためでなく、自分の奥さんの夢を叶えるためだったんです。滝先生は奥さんがもうこの世にはいないという苦悩を抱えて生きています。

 

田中あすか』は副部長ではあるが、実力は部内でトップである実力者。しかし時折見せる冷徹な一面もあり、彼女は自分達とは違う特別な人間なんだと一歩線を引かれている。ですが、あすかは特別な人間なんかではなく、感情の持った普通の高校生であることが描かれます。彼女は『ずっと好きなことを続けるために必死だった。だから廻りをみていつも思ってた。わたしは遊びでやってるわけじゃない、ひとりで吹ければそれでいいって』と言っています。彼女が好きなことを続けるために必死で生きていたんですね、母親から認められないと楽器を演奏し続けることができないから。だからあすかもなんの苦悩もなく音楽をしているわけじゃないんですよね。 あすかが音楽を続けている理由は母親への対抗心からだっただろうし、それだけじゃなくて、父との繋がりを感じるためにユーフォを吹いていたんだと思う。河原で言う「わたし、自分のことユーフォっぽくないなってずっと思ってたんだ」は自分ではユーフォが好きなわけじゃなくて父との繋がりを感じるために演奏していると思っていたんだと思う。

 


こうして2期では執拗に才能があると見えた人間だちの様々な苦悩を描いていきます、才能さえあれば楽しく生きていけるということを否定していきます。小笠原春香があすかが親の問題をあっけらかんと解決しないことに対して『がっかりかな。わたしどこかで特別でいて欲しいと思っているのかもね』と言います。これはまさに、

 

あの人が特別なのは自分とは違って特別だからで、特別ではない自分が特別になれないのは仕方のないことなんだ。

 

と言っているんですよ。あの人は特別だから、自分が特別になれないのは仕方のないことと言って自分のことを納得させているんですね。だから特別だと思っていた人が、自分と同じ人間だと困っちゃうんですよ、だってそうすると特別だと思っていた人間が実は普通の、自分と変わらない感情を持った人間なんだって解ってしまうから。特別な人間なんていないんだと解ってしまうからです。自分が特別になれないのは自分のせいだと解ってしまうからです。

 

だからこの物語は特別じゃない人間と特別な人間を解体する物語なんです。

 

これは『俺の青春ラブコメはやはり間違っている』のリア充に見えて毎日楽しそうに見えた葉山くんが実は、仲間内の人間関係に気を使っていたり、本当に自分のしたいことに対して一歩を踏み出せない人間あることが描かれ、非リア充であるヒッキーが自分が傷つくことを恐れずに行動する様をみて、憧れを抱くという、リア充と非リア充の解体を描いた物語を思い出します。

 


響け!ユーフォニアム』は自分がなにものであるのか?を問う物語だったのだと思います。それは田中あすかが部活に復帰した理由を考えるとそうなんじゃないか?と思うんですよね。

 

あすかは部活をやめる気でいたのは、自分の『全国で父に自分の演奏している音を届けたい』という夢に付き合わせた罪に対する罰だからと考えていたからなんだと思うのですが、それに対して久美子が言うんですね、「先輩のユーフォが聞きたいです」(=あなたの演奏が好きです)だから戻ってきて欲しいと。

 

これはあすかにとって衝撃的な言葉だったのではないだろうか、彼女は自分の演奏が他の部員よりも上なのはそれにみあった練習をしているからだという自負があっただろうし、廻りからも上手いと言われることに対して当然だと思っていたんだろうと思います。でも、最初の説得では心が動かなかったんですよね、それは「みんな」が帰ってきてほしいという、「集団」の意見という全くあやふやなもの、それって誰が言ったの?というものだったからですね。だから、久美子が「わたしが」という、個人の意見になるとそれは信じられるんですよね。そして久美子から上手いではなく、あなたの吹く音が好きだと言われ、『響け!ユーフォニアム』では演奏をしている人間の精神が演奏に影響を与えるという描写をされることがあります、だから「先輩のユーフォが聞きたいです」(=あなたの演奏が好きです)と言われたら、それはあなたの内面が好きだと言っているんですね。

 

あすかは母親から演奏について否定されて生きてきました、それが久美子によって肯定されるんです。あすかにとって演奏することは自分を表現する手段だったのだろうと思います。それを肯定してくれたということは、自分のことを肯定してくれたということなんですよね。そして、その肯定は本当は家族から欲しかったものだったんだと思います。だから、部活に帰ってきたときにあすかは「ただいま」と言い、そして久美子から「おかえりなさい」と返されるんですね。

 

あすかは自分は自分のままでいていいんだと肯定して、部活に復帰したのだと思います。

 

この辺のあすかが語らない想いは、他のキャラを使って表現されていたんじゃないかなーとも思う。例えば、4話でみぞれに対して優子が

「誰が好き好んで嫌いな奴と行動するのよ!(中略)同情?なにそれ、みぞれは私のこと友達と思ってなかったわけ?部活だってそう、本当に希美のためだけに吹奏楽続けてたの?あんだけ練習して、コンクール目指してなにもなかった?(略)」

この台詞、あすかにも当てはまるし、13話で滝先生が言う

「実を言うと少し自信がなかったので嬉しかったです、自分のやりたいことを押し付けてばかりで、皆さんには好かれていないと思っていたので」

これは、あすかの気持ちを代弁しているんだと思います。


ユーフォでは頑張れる人間達が描かれます、でもそれは彼女達が特別だからではないんです。どんなに特別に見える人間でも苦悩を抱えて生きているんです。そして、その苦悩を、トラウマをどうすれば乗り越えられるのか?というと「好きなことをやる」ことなんだと思います。久美子も、麗奈も、あすかも、みぞれも、滝先生だってそうです。好きなことをやることが、この現実生きるに足る活力を与えてくれることなんだと思います。

 そして『響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』へと物語は続く

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