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『らっことかわうそ(前)』春井安子著 この感情に名前をつけるなら

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めちゃくちゃてぇてぇんだよ!!!!!ってことを大きな声で叫びたくなる素晴らしい本です。この物語のどこがてぇてぇのかは実際に読んで確かめてほしいです、実際に読んで衝撃を受けてほしい。


ここからはネタバレありの読んだ前提で書いていきます。

岸本嵐子(らっこ)と河浦颯子(かわうそ)が同じ日に別々の小学校から転校してくるところから物語は始まります。最初読んでいてらっことかわうそスクールカーストの話がメインの物語なのかな?と思っていました。

かわうそが転校初日にクラスメイト達から話しかけられて緊張でお腹の調子が悪くなるというところで、この子は人と上手く付き合えない子なんだと感じます。反対にらっこの方は初日からクラスメイトへの受け答えが出来ており、人の輪に溶け込むのがうまい子なんだと思う。

これを読んでいて、春井さんの作品『星炉病棟』のクーヤとイナカを連想しました

kenkounauma.hatenablog.com

星炉病棟がクーヤの物語(社交性があるように見える人間の話)を描いていたので、今回はイナカ側の話、うまく他人との距離感を測れない側の物語を描いていくのかなと思っていました。読み進めて行くとどんどん深刻な話になっていくのかな・・・とビクビクしながら読んでいたんですが全然そういった雰囲気になる様子がなくて、おや?もしやこれはスクールカーストの話ではないのは?と気がついてからは安心して、嵐子と颯子の二人が仲良く戯れている関係性の物語を楽しんでいました。ではそうなるとこの物語はどこに向かって進んでいるのだろう?という疑問が浮かびます。そして、その疑問はラスト1ページで見事に消化されています。

それは、嵐子が颯子に抱く感情が『恋』であると気がついた瞬間を切り取った1コマ。このページの圧倒的な破壊力、ここまでの流れがあった上でこのページに辿り着くことで嵐子が颯子のことが好きで、でもその好きは恋の好きなんだ!ってわかるページで、この1ページ前のところで嵐子が好きだと気がつく表現がものすごくよくて、あぁこの子は恋しちゃったんだなって解るんですよ!凄くないですか!?


さき書いたように物語の流れが本当によくて、最初転校してきた小学校5年生の春から始まってページが進んでいくごとに学年が上がっていってて、二人の成長を追いながら読めるんですよね、だから嵐子と颯子が長い間2人の関係性を育んでるのがわかって、嵐子と颯子の二人が親友と呼べるレベルの関係なんだなって解るんですよ。この関係性の積み上げ、中学2年になってようやく颯子への好きの種類がわかる瞬間なんかすげぇー!ってなります、だって読んでいて間違いなく二人の絆が深いものだってわかるんだもの。


小学生編での颯子の気持ちが、わかる、わかるよ・・・ってなってめちゃ心苦しかった。自分は学校で友達出来なくてぼっちになった経験ってないですけど、たまに知らない人ばかり集まるときは話掛けられないし、うまく受け答えできないしで、あかんなぁっていまだに思ってしまうんですが、たぶん颯子も同じような気持ちなんじゃないかな?と思ってしまいます。まぁ、うまくやろうと思うからダメだなぁって思うのであって、うまくやれなくたっていいんだよ!っていうのは分かってるんだけどなかなかそううまく気持ちは切り替えられません(苦笑)

そんな、学校ではうまく回りの子の輪に入れない颯子が卒業するときに言う

「小学校、あんまりうまくできなかったけど、終わったら寂しくなったよ。好きだったのかなぁ」

この台詞、そうなんだ。たくさんの友達がいなくても、回りにうまく溶け込めなくても、たった一人でも親友と呼べる人間がいれば、好きだと言える思い出になるんだ。ここの台詞を視たとき、颯子良かったな・・・と思って泣いてしまった、嵐子が居てよかったね・・・(泣)


中学校編では颯子の立ち回りかたが徹底してきていて、嵐子の回りに友達が集まってくると自然と颯子は離れるですよね、小学生の時まではこの離れていく行動が逃げているように見えていたのが、中学生になると自然な行動に見えるんです。たぶんなんですけど颯子はもう嵐子と絆レベルの友達なので離れていても大丈夫なんだと思うんです、つねに一緒に居なくたって友達だから。だから嵐子の回りに友達が集まったときに颯子が教室からいなくなっている描写をみてもいたたまれなくて逃げているんじゃなくて、自然と、自分は輪に入れないから離れているんだと思うんです。

と、そう考えると嵐子が颯子に対してこの感情が恋だって気がつくのはなぜかがわかると思います。嵐子はいままで颯子が輪に入ってこれないのは難しいことなんだろうなと思って強制はしてこなかったと思うし、受け入れていたんだと思うんです。でも、中学生になって颯子が輪に入らないのが逃げではなくて、彼女の意思で選び取った選択なんだということが嵐子からみると颯子が成長したんだと感じたんだ、だから少し大人になった(身体的にも颯子の方が先に初潮が来ている)颯子の姿が魅力的に写ったんだと思うんです。だから嵐子は颯子に恋をし、その背中を追いかけるように全力で走り出すんだ。


いや、なんかいろいろ書いたんですけどこの物語で感動した部分のどう考えても嵐子の方が友達がたくさんいてリア充に見えるのに、回りの人間とうまくつきあわない颯子に恋をしていたという展開を語りたかっただけなんです・・・。嵐子と颯子の秘密を垣間見ている感じがしてドキドキして、うわぁー!!って叫びながら読んでたので・・・。

続きがいまからとても楽しみです。


『星炉病棟』のクーヤとイナカを連想したと書いたんですけど、この物語が『星炉病棟』の続編的な感じがします、クーヤとイナカが仲良くなったらこうなるみたいな未来をみている感じがして、なんか感動してしまいました。