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『おたえの日常短編集(千聖割増)』 糸洲著 日常を楽しく生きたいなら表現して伝えろ!!

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今回の糸洲さんの本は、本のタイトルにある通りに『花園たえの日常』を描いています。おたえが日常を幸せそうに過ごしている物語です。でも、これが日常の物語を描いた『けいおん』とか『ゆゆ式』とかの普通の女の子が主人公の物語ではないんですよ。

 

糸洲さんの本は『花園ランド』から知ったのということを前の記事で書きましたが

kenkounauma.hatenablog.com

 

いままでの糸洲さんの作品が『私は普通じゃないかもしれないけど、でも生きたい!』という叫びを描いていたのだと自分は感じました。そして、その流れがあって今回の作品で『This Communication』の記事で書いたんですが

kenkounauma.hatenablog.com

会話がすれ違っていても楽しい!というような、自分が自分のまま変わらずに人生を楽しむ物語です。たとえば、『私がモテないのはお前らが悪い!』や『僕の心のヤバイやつ』のような作品ですかね。 

 

そして今回の本を読んで感じたのは、『私は私のままで生きる』ということを肯定的に描くことで、花園たえという思考の突飛な人間がそのまま、相手の機嫌や顔色を伺うことをせずに、喋ったり、行動したりしてもいいんだ!!とこちらの作品で言っているんだということです。

 

というような、上記で書いたことをここから頑張って説明して行きたいですが、意味不明ことを書くと思います・・・。えっとですね、たぶんこの本を読んでる方は花園たえがどういった子なのか?というのはわかっていると思うのですが、たぶん身の回りにいたらこの本に描かれている千聖のような反応をするか『This Communication』で描かれている「良子」のように反応の困る発言に対して怒ったりするのが普通だと思うんですよね。

 

でも、糸洲さんの描く花園たえはその可能性があることを全然怖がっていないように見えます。自分が思ったことを正直に話しているんですよね。そしてそのことを少なくともポピパは受け入れていますよね。有咲と千聖は対象的に描かれていると感じます。

 

有咲は『花園ランド』でおたえの内面世界をおたえと一緒に冒険して、その結果、糸洲さんのあとがきに書かれていますがおたえってなに考えてるかわからない。でも、夢やあこがれを持っていたり、悩んだり、不安になったりするんだということを有咲は知り、おたえも自分と変わらない部分があることに気がつくんです。自分と変わらない、おたえは特別な人間じゃなくて、特別に見えるだけなんです。そうすることで有咲はおたえを同じなんだと受け入れることで対等な関係になります。自分はこの対等な関係こそが『本当の友達』なんだと思います。だから、『花園ランド』で有咲とおたえは親友なります。

 

千聖はこの体験をしていません。だからおたえがどんな人間なのかを知りません。 そして、おたえの不思議な発言に対して困惑している描写がよくされています。でもたぶん、有咲も最初はおたえの不思議な発言に対してはそういう反応をしていたのではないかなぁ?。けど、有咲はおたえと一緒にいるときの楽しみかたをわかっている、それは、なんかよくわからないけど難しいことを考えずに一緒に楽しめばいいってことなんだと思うんです。

 

それはこちらの本では収録されていないんですが糸洲さんのTwitterにあげられている千聖とおたえが京都で出会うっていう「白鷺千聖の京都旅行 後編」で訳はわからないけど、おたえにツーショット写真を沢山撮られるんですね、でもだんたんだんと楽しくなってくるんですよ。なんかよくわからないけど、楽しいんです。

 

つまりですね、楽しんでる人がいたらその人とと一緒に楽しめばいいんです。それだけでいいんです、だってそれで楽しいんだから。っていう風に感じます。


前半は、おたえを主人公にしつつ、千聖と有咲の『おたえとどう付き合っているか』という比較を描かれていました。そして後半で、おたえが主人公になったとたんに展開されるオーナーとの物語。前半までは、うんうん変わらないまま楽しく生きるのがいいよね。と今回の本のテーマを描ききっているなーと思っていたのですが、まさかの爆弾が投入されていました。その爆弾とはオーナーとおたえがセッションすることになりオーナーがおたえに「音楽とはなにか?」を問うシーンの台詞です。以下に引用します。

「音楽とは何か、ポッピンパーティとはどんなバンドなのか、少しはわかったかい?
 
 音楽は表現だ 何かを誰かに伝えるんだ つまるところ自分探しだ 何が好きで何に怒るのか
 
 それらを知るために たくさん練習して たくさん遊んで とにかくいろんなことをしろ!

 自分が何を伝えたいのか 自分が何を考えているのか 考えろ!

 それが表現者として 生きるってことだと思う」

 花園ランドで特別に見える人間が実は自分と変わらないと描いて、次の『this』ではコミュニケーションのうまくいかなさを描いて、そしてこの作品では千聖とのコミュニケーションのうまくいかなさを描いているが、でもおたえは自分の言葉が通じているかどうかなんて気にしないで楽しそうに喋っています。有咲との会話をみればわかる通り、自分を変えずに楽しそうなら一緒に楽しめばいいだというように描いて、言葉が通じなくたって楽しいならそれでいいじゃないか!と言っているんだと思うんですよ。それはセッションしているときにおたえがオーナーはやっぱり凄いと驚くシーンがあるのですが

(少しでもオーナーに見合った演奏をしないと!)

「花園これはセッションだ 音の中に自分を混ぜろ!! 「自分はこういう人間だ」って伝えるんだ!」 

これ、何を言っているのかと言うと、他人に自分を合わせるな、自分を変えるな、自分は自分だ!ってことなんだと思うんです。そして、なんで自分を変えるなと言うのかというと、もしオーナーに合わせて演奏したら、そのときおたえは楽しかったでしょうか?このときのおたえの顔は冷や汗をかいて、必死な顔をしています。自分を変えて、人に合わせるって、自分を下げているから苦しいんですよ。必死な顔をしてしまう。でも、オーナーに自分はこういう人間だ!って伝えるんだ!と言われたあとのおたえは笑顔で演奏しています。相手に合わせないで自分でいいって言われたからです。だから楽しく演奏しているんですね。

 

でも、これってなんで楽しくなるのか?と言うとオーナーの言葉にあるように『表現』することが大切なんです。なにかアクションを起こす必要があるんですね。これは『タビと道づれ』でユキタ君が言う

 

『お前はなんのために口がついている? わからなくても、言葉にしろよ』

 

この言葉を思いだします。主人公である『タビ』はうまく言葉に出来ない子で、言葉にとしてでることがおたえのように結論からでてくるのでその過程を共有していない人には意味がわからないんですね、タビはそれを気にしてだんだん相手に言葉で伝えることをに臆病になっていきます。そうすると相手はますますタビがなにを考えているのかがわからなくなってという悪循環のループになってしまうんですが。
これも相手に言葉が伝わらない子の物語を描いているのですが、うまく伝えられないからと言ってなにもアクションを起こさないとなにも伝わらないんですよね。

 

ちなみに、『タビと道づれ』超傑作です。自分と同じ世代90から00年代の人ならめっちゃ共感できると思います。読んでないと人生損レベルの作品なので是非読んでください。

kenkounauma.hatenablog.com

 

話を戻して、オーナーが『自分が何を伝えたいのか 自分が何を考えているのか 考えろ!』というのは強い表現ですね、『花園ランド』のおたえが自分と変わらない女の子であることを描き、『This Communication』で、でもやっぱりコミュニケーションがうまくいかないのは事実なんだ!と言い、そして『おたえの日常短編集』の前半で楽しそうに日常を過ごすおたえを描き、後半でオーナーとおたえの物語を描いたのは

 

コミュニケーションが苦手でも、日常を楽しく過ごしたいなら、自分が何を伝えたいのか 自分が何を考えているのか 考えて表現しろ!伝えろ!

 

って言っているんだと感じました。これってもし表現が出来ないのであれば、コミュニケーションが取れないことを嘆いてはいけないんだ、だって表現が出来ないと言って人と向き合うことから逃げていたらいつまでたっても伝わらないだけなんですよ。伝わらないと生きていても面白くないんですよ。

 

だから、自分の人生を楽しく生きるために、表現しろって言っているんですよ。

 

自分はこう感じたわけですが、糸洲さんめちゃくちゃスゲェ!ってなりました。前回の『This Communication』の記事で自分は糸洲さんは次に描くのは不思議な行動をとる人間が、そのことに悩まずに、あるがまま日常を楽しんでいいだというものを描いていると言っていましたが、その次を今回の新刊で描いているのが、なんというかスゴいとしか言いようがないです。たぶんこれって人生は楽しいんだと肯定出来ていないと描けないんだと思うんです。糸洲さんのコアって『This Communication』にあると思っているんですが、でも人生は楽しいんだ、いや、楽しくすることができるんだ!っていう宣言を今回の本でしているんだと感じました。

 

いやー、面白かったです。そして、ここの先ってなんだろう?って思います。たぶんなんですけど、この次って成長なんじゃないかな?って思います。伝えたい言葉を伝えるための努力をすること、そのためには成長しないといけない。でも成長するってことは困難に立ち向かうことで、その困難をどうすれば乗り越えられるのか?ってことかなぁって思います『宇宙よりも遠い場所』の小淵沢しらせと玉木マリの関係ですね。