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『島とビールと女をめぐる断片』たいぼく著 広い世界を見ることで人は変わる

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こちらは『ブルモーメントの女達』に対するアンサーなのかなと。


三人の女がいるが、明らかにユッコは一歩引いた位置にいると感じる。だからこれはハヤセとフミの二人の物語なんだ。そして、最後にユッコがかっさらうがこれは半年たったことで関係性が変化していることがもろにわかる。まだ読めてないのですが、色々解説を見る限り、恋愛とは上下関係であるとした栗本薫さんの『真夜中の天使』を思い出します。あとは最近だと『かぐや様は告らせたい』でもそうでしたね。


海外に行くまではフミがハヤセの上に立っていた、それは海でフミがハヤセに海外に行くことを打ち明けるシーンではっきりとわかります。(手を上に重ねているところ、ハヤセが告白しようとするところ)


でもこの関係が逆転するのは、フミが海外に行って、『天一』が恋しくて帰ってきたと言っていますが、ハヤセは寂しくて帰ってきたと捕らえることができます。ということはフミは日本にいて、ハヤセはフミに会いたくて帰ってきたと捉えると、上下関係が逆転しているんですね。


もともとはハヤセがフミに翻弄されて、引っ張られる側だったのに、ハヤセが翻弄する側になっている。 自分一筋だと思っていたハヤセが、ネトラレていて、ぐっと手を握りしめている。恐らく海外に行くことで、ハヤセが離れたことがフミにとって、堪えることだったと、離れて気がついたんだ。だから帰ってきたのに(笑)


ここのハヤセが『半年あれば人は変わりますよ』と言って、フミがグッと手を握りしめる、そしてハヤセが「あはっ、 やっと、焦ってくれた」と言う流れははっとした。これって、半年も会わなければ心は離れていけて、そう考えると『NEW GAME』のりんは気持ちを忘れないためにコウに会いに行って、『リズと青い鳥』のみぞれとのぞみは離ればなれになってしまうのだとすれば、会おうとしなければこの二人の心は離れてしまうかもしれないんだ…。どうなるんだろう…。


ちょっと脇にそれたので戻して。 というか、この話を読めば恋愛だったのかそれとも友情だったのか?というのはそんなに変わりがないんじゃないか?と思います。友情と恋愛に違いがあるとすれば、相手を性的に受け入れられるか?というだけに過ぎないと思思えるんですよ。フミとユッコとハヤセが3人で楽しそうにしているのってもう、読んでる側からすれば付き合ってるか??と見えるじゃないですか、だから、友情と恋愛ってほとんど同じ状態なんじゃないの?と。 それと、突発的に旅行に行くって めっちゃめちゃ面白そうじゃないですか?? これが友達なんだっていうのがよくわかるんだ。ここに異性(異性じゃなくても恋愛対象のこと)が入ると楽しそうだなぁって眺めることができなくなってしまうと思うんだ、まぁそれもそれで楽しいんだけど。突発的に青春18切符で旅に出たり、電車のなかでビール飲んだり、全くの無計画だから宿も取ってないから野宿したりとか。。純粋にキャッキャウフフ(死語?)しているのが見ていて気持ちがいい。


『ブルモーメントの娘たち』や『料理教室にギャルの先生がいて嬉しい』でも描かれていますが、たいぼくさんは飯を旨そうに食べるのが物凄く上手いです。旨そうに食べてるから、あぁこの瞬間は幸せなんだってわかる。それと、背景の漫画的な巧さ(?)というのですかね? 背景が絵としてただあるだけじゃなくて、これがあることで物語の精度がグッと上がっているんだ。例えば、電車内、海で遊んでるとこ、軽トラックに乗っているところなどなど。背景がしっかりと描かれていることで、この場所があるんだという実在感があり、物語への没入感を高めているのだと思う。読んでいてこれは素晴らしいなぁと唸りました。


あ、表紙はフミが帰ってきてからの図なのか。