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おもしろいと思ったものを

『花弁抄 野菊を焼く』 JOY著 こんな素敵なお爺さんになりたい

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いまから亡くなった方を火葬するときに、火葬場に響く「そのひと焼かないでください!」という声。声の主は花束を持って現れた若い女性だった。

 

親族の誰も、現れた女性のことを知らないし、突然現れた若い女性に戸惑うのですが、確かにこれはよくわかるなと思うんですよね。親族の方々は亡くなったお爺さんと同じような年齢層で、お爺さんが若い女性と出会う可能性、しかも火葬場まで駆けつけてくるような関係性を築くことができるなんて、普通の関係ではあり得ない、つまりなにか「いかがわしい」関係なのではないか?と連想してしまったのではないかな。

 

しかし、お爺さんの孫は女性が現れたことに対しての驚きが他の親族と比べて少ないように見える。これはこのあとでお爺さんと女性が出会ったきっかけがSNSだったとわかるのですが、孫はそこの可能性に思い当たらずとも、普通に出会うかもしれない可能性があるのではないかと無意識に感じているのではないでしょうか?ここで世代間の価値観の違いを表しているんですよね。

 

そして、お爺さんと女性はSNSで出会ったわけですが、コンタクトを取ったのは女性からなんですよね。自分とは半世紀以上も年の離れたお爺さんが、温室の写真ばかり上げているのに、クジラが見たいとプロフィールに書いてあるセンスに惹かれたのが理由。

 

この作品のテーマをここで思い至ったのですが、それは「年の離れた友情は芽生えるのか?」ということ。

 

彼女はお爺さんと直接会って、クジラを観に行ったようで、そこで出会ったお爺さんの姿勢の良さとか、服装のセンス、豊富な知識、相手を尊重する態度。どれをとっても素敵な人間なんですよね。素敵な相手だからこそ、この関係が長続きできないことを想像してしまい好きになったら別れがつらいから好きになりたくないと思っているのではないかな。

 

ですが、女性はお爺さんの火葬場に来てしまう。お爺さんとの思い出を楽しそうに語る。女性はお爺さんのことを好きになってしまっている。だから亡くなったことに、ショックを受ける、寂しく思う、胸が張り裂けそうなくらい痛くなる。また会いたいと思ってしまう。

 

でも、ラストでお爺さんの孫から「柴崎さんしか知らない祖父の話 もっと聞きたいんです」と言われることで彼女(柴崎)は気が付いたのかもしれないんですよね。誰も知らないお爺さんの姿を柴崎さんには見せていた。つまり、お爺さんにとっても柴崎さんが特別な存在だったということに。それは、柴崎さんとみたクジラがいた場所に咲いていた野菊と一緒に焼いてほしいと願ったことからもわかります。

 

お爺さんと女性の間に友情は芽生えたのか?はもう言うまでもなく、わかりますよね。

 

世代を超えても、魅力的なひとには友達ができるんですね。おじいさんのように。

 

今回のコミティアで偶然発見した作品だったのですが、表紙からの試し読みさせて頂いて、絵が凄くて、その凄さが物語の面白さを引き出してて、これは自覚的にこの絵の凄さを使っているのでは!?と思うぐらいに素晴らしいかったと感じ、購入しました。応援したい作家さんが増えて嬉しいですねー!