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『千古の風をゆく者』 2019年 海苔著 自由はどこにある?

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三◯◯年前、レオタナ帝国に反旗を翻した者たち

レオタナによって冷遇されていた者、

ある理想を掲げた者、

貧困にあえぐ者

様々な理由で帝国への不満を募らせた者たちが、

レオタナの東、巨大な山脈の向こうに旅立った。

彼らは自らを『シバル(新しい者)』と呼んだ。

新たな地には十五の氏族からなるルシタル人が住んでいたが、

シバル人は、あるときは彼らと剣を交え、

またあるときは友として彼らと交流し、

そこにシバル王国を築いた。

ルシタル人のなかにはシバルとともに生きた者、

戦って散った者、

北へ去っていった者もいた。

ルシタルとシバルが混ざり合った強大な王国が興って以来、

それを脅威とみなしたレオタナ帝国との戦いが、

幾度となく繰り広げられることとなった。

二巻冒頭より引用

 

 

第一巻を読んだのは2019年のコミティアで見つけてからだったと思うのですが、上橋菜穂子さんの『獣の奏者』や、宮崎駿の『風の谷のナウシカ』を彷彿とさせるハイファンタジーの世界観に魅了されてしまったのを覚えています。2巻を最近Boothで買えることを知って、即購入しました。

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この物語の主人公は二人の女性だと思っているのですが、一人は竜に乗って戦う身分の女性と、もう一人はおそらく滅ぶ寸前の国のレオタナ帝国の姫の二人です。

 

竜乗りの女性、テアは元ルシタル人で、シバル人に親を殺された過去があります。

レオタナ帝国の姫、ネビリアは母親が父親に愛されてはいなかったこと、そしていままた自分が道具のように扱われそうになっていることに怒りを感じています。

二人とも共通するのは、大きな力に理不尽に大切なものを奪われている点ですね。

 

2巻を読むとわかるのですが、シルバ王国は様々な氏族が混ざり合った国だと想像できるのでもしかしたら差別的意識が低いのではないか?と想像していましたが、どうやらレオタナ帝国と同じように男尊女卑の国であるということが伺えます。そして、作者さんがスピンオフとして描かれている物語が2作品ありますが、どちらもルシタル人にスポットをあてており、シバル人とルシタル人がまだ争っている最中の時代の話のなかでもルシタルの女性も道具のように扱われていました。

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この物語の中では様々なところで、女性であることによって被る不幸が描かれているところをみると、この作品のテーマここにあるのかなと思います。なので、テアと、そしてネビリアの二人が主人公であると思ったんですよね。

 

テアは女性であるにもかかわらず、男の恰好をし、自分が男であるかのように振舞っています。おそらくですが、男尊女卑の世界に生きているので、男であると誤認させることで男に見下されないようにしているのではないでしょうか。しかし、なぜそうしているのか?と考えると思いつくのは、テアはまだ親を殺された復讐心を忘れてはいないからだと思います。竜乗りになれるのはルシタル人の中でもある条件にあった者しか乗れないのだと思います。しかし、男尊女卑の風習のある国なので、女性では軍隊にはいることは難しかったのではないでしょうか?だから自分が男であると偽っているのではないか?そして、軍隊の中で成果をあげてなにかをなそうと考えているのではないでしょうか?

 

ネビリアは、シバル王国との同盟のために嫁がせることが決まっているようです。彼女に決定権はありません。それが現代の自分の視点からみると悲しいことではあるけれども、この作品の倫理観がどうなっているのかわかりませんが、建物や、武器などを見るにおそらく中世以前なのではないでしょうか?

 

そう考えると面白いのは、一巻の中でネビリアが「自由」という言葉を使っていることです。調べてみると「自由」という言葉が使われ始めたのが僕らの世界では十八世紀頃だと理解したのですが、この物語の世界には自由という概念があるところが面白いです。

 

そして、この「自由」というのが上で書いた自分がこの作品のテーマであると思っていて、女性であることによって被る不幸から脱出するために「自由」を欲しているのだと思います。だとすると、テアは功績を上げて自由を勝ち取ろうとしているのかもしれないですね。

 

ネビリアはというと、一巻のラストでネビリアの父であるレオタナ帝国の王が暗殺されてしまいます。しかし、そのことをネビリアは悲しんでいない。そして、父が死んで自由になれるはずもなく、叔父(おそらく父を殺した主犯)が国王になるであろう、その叔父もまたネビリアを政治の道具に使うであろうから彼女は自由にはなれない。どうしたらネビリアは自由になれるのでしょうか?気になるところです。

 

一体この物語がどこにたどり着くのか、とても、とっても、とー--っても気になります!!!!!ぜひ、ぜひとも続きが読みたいです!!

 

 

他にも、世界観が素晴らしいなーと、宗教を描いているのでそこから人々の倫理観をうかがうこともできたりするし、シバル人がルシタル人を吸収できた理由もいろいろあるんだろうなーとか、面白そうな要素が満載なので、ハイファンタジーが好きな人は是非とも手に取って読んで欲しいです。そして感想とか今後の展開予想を是非聞きたい、、、(笑)