今日も一日健やかに物語を

おもしろいと思ったものを

『あこの寿司』 すずき著  寿司を通じて表現者の心構えを描く

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すずきさんの新刊、楽しみにしてました。前回の頭が狂っている(誉め言葉)作品、あこを描いた作品の数々どれも素晴らしくて良いので読んでない人は是非読んで、読んでなくても今回の新刊は楽しめるけど読むとすずきさんのあこに対する深みが増してあこ味(あこみ)がドーンでバーンなので···。

www.melonbooks.co.jp

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新刊の感想に入っていきますが、まずはタイトルから

『あこの寿司』
うん···、うん?あこと寿司に一体なんの繋がりがあるのか全く意味がわかりませんでした。ですがそれでこそすずきさん、型にはまらない作品をつくられる方、おいしそうなあこの寿司いただきます。

 

「開店!あこ寿司!」
突然ですが、みなさんは寿司を題材にした作品を読んだことがありますか?自分はありません精々料理漫画の中で1話だけつかって描くぐらいでしょうか。漫画でなら見たことはあるけど、小説では全く読んだことがなかったので寿司を描いている作品に素直に驚き、そして興味深く読んでいました。ツケ場なんて言葉はじめて知りました。

あこが寿司屋で働いているところから始まり、正直困惑してしまいました、ですがまぁそういうこと(薫並感)なんだろうと思って受け入れて読み進めました。とりあえずあこちゃんの可愛い姿がみれて幸せだなーとなりつつ寿司ネタが某寿司店を思い出し笑いました。寿司屋なのにおすすめがハンバーグってなんだよ(笑)。でもこのハンバーグ寿司是非食べたいですね、あこちゃんがふーふーして冷ました、あこ吐息がかかった、そしてあこが握ったシャリ、このハンバーグおにぎりは絶品に違いない!(錯乱) そりゃーりんりんもトリップするでしょう。そして「白金さん」botと化すさよさん。
しかしあこちゃんは優しいなぁ、さよさんのためにフライドポテトまで用意するなんて。喜んでくれることをやってあげられる、そんなあこちゃんカッコいいよ!


「紗夜さんの旅立ち! ひなちん決意のばらちらし!」
おねーちゃん······とおくに、いっちゃうんだって······

え、うそ、うそでしょ?まさかさよひなが別れる悲しいお話が始まるんですか?と心配になりながら読んでました。でも旅立つ姉が楽しそうにしているのを邪魔したくないという日菜の気持ちがすごく良くて、だってお泊まり会を経て二人の距離が縮まったのにこんどは物理的に距離が離れてしまうなんて悲しいハズなのに、それでも紗夜のことを尊重して、最高の旅立ちをして貰う決意をしてるなんて素晴らしいじゃないですか!しかも友達のあこに相談してるなんて、日菜の人間としての変化が感じられてすげぇ泣けるんだよ···。人間はね、どんな天才であっても一人で出来る作業には限界があってね、それを越えようと思ったら仲間(友達)に協力してもらわないと大きなことってのは成し遂げられないんだよ!
だからこそね、この物語は1日の間の出来事を描いてるんだけど、朝に日菜は紗夜から旅立つと聞かされて、その日の内に巨大な垂れ幕やばらちらし、飾り切りのわんちゃん。紗夜が喜ぶ薔薇や犬を用意出来たんですよ!(いや、すげぇよ)

紗夜が何処に旅立つのかは本紙を読んで欲しいです。あとはロゼリアの5thライブを事前に履修しておくと深みが増します。

「りんりんピンチ!? ありんこ友情のハンバーグ寿司!」
そして、そして物語はここに辿り着く。いままでの小編はこの話までの伏線が散りばめられていたのだ。凄い、まさか全く関係ないと思われた小編群がここに繋がっていたなんて、こういうのすごーーーーく好きです!こうするとね、消費されて頭から消えていく物語にならないでね、点と点が繋がって線になって、点を思い出すとまた次の点と繋がってという風に思い出して記憶に残るんですよ。好き。
そしてなによりね、こういったギミックが面白いだけじゃなくて、お話単体で読んでもとても素晴らしいものなんですよ。りんりんは修学旅行に行くことが憂鬱みたいで、それは彼女のことを考えれば確かにそうだとうなずける。同学年に共通の話題を喋れる友達はいないし、人混みは苦手だし、あこちゃんは居ないしでもう不安しか無いわけですね。そしてまたあこ分を補給するためにお寿司を握って欲しいとお願いする。
あこちゃんはりんりんを励ますためにひなちんを見習って、りんりんが喜ぶものを食べさせてあげようとするんですが、ビックリして欲しいと成長を感じて欲しいという承認欲求に変わってしまい、喜んでもらうことが目的ではなくて、喜んでもらって誉めてもらうことが目的になってしまっていた。
そんな気持ちで振る舞ったお寿司は、確かに以前よりも格段にレベルアップした出来栄えでりんりんも喜んでくれましたが、りんりんは心から嬉しいというようには感じられなかった。そんなりんりんの姿をみてあこは自分がどんな気持ちで寿司を握ったのか悟るんですよ、そしてそれを反省して今度こそりんりんが喜ぶ寿司を握る。

ここにきて、寿司が、全然関係なくない?と思っていた寿司が、すべて意味のあることだったのだと気づかされた。
寿司は握る人の気持ちがこもる、だからこそ寿司を握るということは気持ちを相手に伝えることでもあるんだ。まさか、寿司にこんな深い意味があったなんて、凄すぎますすずきさん。

そしてこれは表現者の心構えとしてとても重要なことだなーと思いました。
そしてスゴくタイミングのいい小池一夫さんのツイートが

自分もこうやってブログやツイッターを書いてるけど誉めて貰いたくて書いたりしたらいかんなーと思った。


それにこの寿司のエピソードはあこちゃんがりんりんに依存していないということも表現されていると感じられて素晴らしいと思いました。依存というのは相手からの承認を得ることでしか自分の存在価値を見いだせないことだと思っているんですが、あこちゃんはりんりんにカッコいいよって誉めてほしくて寿司を握ったのではなく、純粋に喜んでほしくて、たぶん誉めてくれなくても、喜んだ顔をみれるだけで幸せになれるんだけど、でも好きでやってることだとおもうんですよ。好きでやってることは他に左右されない。好きだからやる。かっこいいよあこちゃん!!

 

「さらば! あこ寿司!」
はー······たのしかったぁ······
同意見だよあこちゃん、そして最後の台詞、とっても格好いいねあこちゃん!(泣)