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『Winter green daydream』 板路 夕著 終末なにしてますか?

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板路夕さんの物語を読んでいてると、自然と異世界に連れていかれる感じがしてとても好きです。今回はどんな世界に連れていってくれるのだろう?とワクワクしながら読んでいたのですが、今回はまさかのド直球で百合漫画!?と、思っていました。物語の途中までは・・・。

 

後半で実はこの世界が滅びる一歩手前の状態であることが明かされるんですね。だとするとおかしいと思いませんか?それをわかっていながらアキせんぱいと布結子は焦ることもなく日常を過ごしているようにみえます。アキ先輩はそんな終わりへと向かう世界で、すでにどう生きていくを決めていて、それは

 

『あなたと一緒に終わりへと向かうこの世界を生きていく』

 

ですね。このような終わりへと向かう世界を生きていく、いまある現実を受け入れて生きてくというのは板路夕さんの『DEPT』の記事で書いたのですが。

 

全体を通して感じることとして生と死の狭間を覗き込んでいるような・・・と思っていたのですが、いま読み返してて、そうか、こういうことか!と思ったんです。結論から言うと『狂った世界で生きる人々』の物語だと思ったんですが、そこに至るまでをつらつらと書いていきます

読み返したあとに、『天気の子』で須賀さんが言っていた「世界なんてさ──どうせもともと狂ってんだから」を思い出したんです。今回手にいれた板路夕さんの本は全て現代をベースにファンタジーが挿入されてて、なんというか世界が狂っているということを世界観から感じる。でもその狂った世界で主人公や登場人物たちは『普通』に暮らしてるんですよね。この狂った世界でも普通に暮らしていく、暮らしていたいと思っているんだ!と思うんですよ。

『天気の子』を観たときに狂った世界でも、滅亡した東京でも、この世界で生きていたいですか?ということを感じたんですが、帆高や陽菜はそんな世界でも生きたいと思える、僕たちは大丈夫だ!!と高々に宣言した!と感じたんです。

そして、板路夕さんの作品を読むと、どう考えても狂った世界で、生きたいと思っているように見えるんですよ。いや、そんな思ってるとかじゃなくて、当たり前だよねっていう感覚で生きているようにしか思えないんです。

 

kenkounauma.hatenablog.com

 

この感覚をアキ先輩は持っていると思うんですよね。そして、この感覚を持てるのは布結子がいるからだと思うのですが。布結子は明るくて、人生を謳歌しているようにみえます。だからアキせんぱいは、そんな布結子の明るさに元気づけられてこの世界を生きていこうとしているのだと思うのです。

 

ですが、布結子は無邪気にいまを楽しんでるわけではないことがわかるんですよね。そこがいいなぁと思います。最近読んだ『フラグタイム』『オレが私になるまでに』『妹の友達』なんかを思い出すのですが、明るく振る舞っている子だって毎日明るく振る舞えているわけではなく、実はちゃんと悩みもするのだという描写がされていて、いや、そうだよなと思うのと同時に、明るい子だって悩むこともあるんだよなと改めて考えさせられたんですよね。 布結子も一コマだけですが、私も怖いとアキに聞こえないように言ってるんです、そう、アキだけじゃなくて、布結子も生きてるんだ!!とこのページでわかるんですよ、めっちゃいいですよね・・・。

 

と、ここまでがコミティア版の感想なのですが、板路夕さんのTwitterで布結子視点verがあげられていて、そちらを読むとラストの数ページでのモノローグが布結子視点のものになっていて、なにを思っているか?がわかるんですよね。

 

あてのない祈りが共鳴して まるで大きな獣が 悲しげに共鳴してるみたいじゃないですか?

その内臓のあたたかさで 私たちの 髪の毛が 手が くちびるが こころが腐っていくその前に

内側から腹をやぶって この世界を壊してしまいたい。

(血の濡れた手でも あなたは握り返してくれるのかな)

 

 

 

という風に変わっています。これを読みとくと、布結子はこのあたたかいけど徐々に死んでいく世界を

 

『壊したい』

 

と思っているんですよね。これ面白くないですか

 

だって、上で書きましたがアキせんぱいは

 

『あなたと一緒に終わりへと向かうこの世界を生きていく』

 

アキせんぱいは『この世界で生きていく』ことを考えているのに対して、布結子は『この世界を壊したい』と逆のことを考えているんですよね。

 

なぜ布結子はアキせんぱいと同じように『この世界で生きる』ことを考えていないのか?と言うと、アキせんぱいがこの終末に向かっている世界を怖がっているからです。

 

そうなんです、布結子はどこまでもアキせんぱいのことを考えているから、アキせんぱいが怖がるこの世界の構造を『壊したい』と思っているんです。

 


すげぇっす・・・、こんな少ないページでここまでの物語を盛り込んでいるなんて・・・。絶対過去になにかあったんだろうし、この先の未来でも二人の関係が揺らぐときが来てしまうことも予感できてしまうんだぜ・・・。

今回も面白い!ひとつの作品で2つの視点とテーマ性を描いてて、なにか次に進もうとしているだと予感させる本でした。

 

板路夕さんの他作品の感想は以下に。

kenkounauma.hatenablog.com

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