今日も一日健やかに物語を

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『俺にはこの暗がりが心地よかった』 星崎崑著  ささやかな幸せを奪われないことの難しさ

俺にはこの暗がりが心地よかった ─絶望から始まる異世界生活、神の気まぐれで強制配信中─ (GAノベル)

こちら作品を知ったのは、いつも大変参考させてもらってる人のTwitterでしたね。この作品が面白い!!と言っていたので、先日、書籍が発売したということで早速読みましたね。

いやぁ、面白くって読むのがやめられずに最後まで読み切ってしまった。
あとがきで作者さんがこれはアニメ化したいという目標があるとありましたが、絶対にこれはアニメ化すると思いますし、その他メディアミックスでの展開があるでしょうからいまから楽しみですね!!!

冒頭1ページ目の

 

俺にはこの暗がりが心地よかった。 

静寂と死が充満する迷宮に潜み、物言わぬ骸と化した探索者から装備を剝ぎ闇市で売りさばけば、なんとか食べていくことができた。 

死と隣り合わせの羨道で、玄室で。 

俺は闇を身に纏い、今日もただ息を殺し蹲っている。 

誰にも見られないように。

 誰からも注目を集めないように。 

そして。誰もが俺のことを忘れるように──

 

 

もう、これだけでうわーーー!!これは絶対面白いぞーーー!!!ってテンションめっちゃ上がりました。
この説明だけで、この物語世界は過酷な世界だって想像できるし、弱肉強食の世界で、最弱だと思っていたゴブリンにすら殺される世界かもしれない世界なんじゃないかってありありと想像できて、うぉー!ってなったんですよね。
これって、ようは『灰と幻想のグリムガル』を想起したわけなんですけども、グリムガル初期の最弱と思っていたゴブリンにどうやって勝つか?の試行錯誤のところってめちゃくちゃに面白かったので、これもそんな感じで進んでいくのかなーって期待しながら読み進めました。

以下には内容のネタバレを含みます。


この物語を読んでいて思ったのは、これって禰豆子が殺されてしまった場合の炭次郎なんじゃないか?って思ったんですよね。

主人公の黒瀬ヒカルくんて、森から始まる無理ゲーで死にかけたときに、でも生きたいと願うのは幼馴染の相場ナナミちゃんが生きてるかもしれないと信じて、もう一度ちゃんと出会うために必死に生き抜くんですよね。

でも、幼馴染のナナミちゃんはやっぱり死んでいたということが判明する。すると、幼馴染を殺した犯人を恨んで、復讐心で現実に帰ろうとするとかそうじゃないんですよね。そして、もしかしたら幼馴染を復活させられるかもしれない可能性が見えたとき、彼はすべてを犠牲にしてでもその可能性をつかみとろうと決意します。

炭次郎も、自分のためじゃなくて、禰豆子のために、禰豆子が人間に戻る可能性を探るために必死で生き抜く。もし禰豆子が死んでしまっていたらたぶん炭次郎って復讐に燃えた人間なるんじゃなくて、くんのように暗い場所で引きこもって生活をするんじゃないかな?って思ったんですよね。彼はもともと自分の家族と幸せに暮らしていきたかっただけの少年に過ぎなかったはずですから。そう考えると、ヒカルくんも幼馴染がいる生活に満足していて、その幸せを感じながら生きていきたかっただけなんですよね。


これってどういうこなのかというと、三宅香帆さんのこちらのブログをみてなるほどなぁと思ったのですが

note.com


ここで言われている、お金を稼げ!とかってようはリア充になれ!ってことなんじゃないか?って思うんですよね。でも、リア充と非リア充なんてのは本人の感じ方であって、実際にはどっちもどっちで大変なんだってことが『やはり俺の青春ラブコメは間違っている』で示されました。まさに2010年代ですね。

それがいまはシフトして、自分の幸せを求めるならば、自分だけじゃなくて、自分が大切だと思ったものも幸せにしないと、いくらお金を稼ごうが自分のためにならない、死ぬ間際に持っていけるものはお金じゃなくて、思い出だけですから。いやーー、よくわかんないですけどね!!

 

あとは、異世界の姿をライブ配信するっていうシステムが面白いなぁと。これってようはこの小説を読んでいる読者の目線なんですよね。なので途中で挟まれる掲示板回は、自分が解釈した内容と同じようなことが書いてあったりで、読みながらこの物語のことを自分と近い目線で解説してくれるのは面白いなぁと。